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◆病気という概念から妨げとなる障害という表現へ
わが国においてうつ病や躁うつ病と呼ばれていたこころの病気が、国際的に使われる診断名では気分(感情)障害というなじみにくい用語になりました。病気の基本的な障害が気分あるいは感情の変化であり、うつ気分になったり、躁気分になったりするところから、こう名づけられたのです。その他の症状は、気分の変化から二次的に生じるものと考えています。
新しい診断基準の特徴
1
気分(感情)の変化を主とする病態は、病気の成り立ちを考えることなく、病態の特徴であるうつ状態からのみ診断されるようになった。
2
そのため病気の成り立ちが診断名に記されていた心因性うつ病や反応性うつ病、神経症性うつ病、内因性うつ病などは、ICD−10ではうつ病エピソード、DSM−W−TRでは大うつ病性障害に含まれる。
3
うつ病がこれまでよりもはるかに拡大された概念となり、かつての神経症や人格障害の一部も加わった。
4
以前には、神経症性うつ病など心理的要因で起こったうつ病には薬物療法が役立たず、もっぱら精神療法の有効性が説かれていた。しかし神経症性うつ病にも薬物療法は有効であり、大うつ病性障害と診断名が変わることで治療方針が明確となった。
世界保健機関による診断分類(ICD−10)では、気分(感情)障害のなかにうつ病エピソードがあり、米国精神医学会の診断分類(DSM−W−TR)では、気分障害のなかに大うつ病性障害があります。これらの病名が、以前にうつ病と呼ばれていたものです。
うつ病という呼び名でなく、うつ病エピソード(うつ病の一時的な出現)とか大うつ病性障害と診断名が変わったのはなぜでしょうか。こころの病気と違ってからだの病気なら、客観的な所見で病気と診断することが可能です。元気で働いている方でも、健康診断で異常が見つかれば、病気として治療が始まります。
ところが、こころの病気では、たとえうつ気分があっても、支障を覚えずに暮らしている方もいるのです。日常生活での支障が強くなり、ようやく異常だと感じます。そこで病気という概念をやめて、大きな流れの中のちょっとした出来事とか、妨げとなる障害として表現するようになったのです。
ICD−10は国際的な診断分類、DSM−W−TRは米国の診断基準のため、前者は学術的体系よりも国際的合意を優先、後者は米国での臨床を前提に作成されています。しかし両者は対立するのでなく、両者を作成したスタッフが意見を交流させ、無用な相違点の排除に努めました。わが国では、厚生労働省がICD−10の使用を勧めています。
うつ病と診断するときの症状評価項目
ICD−10/うつ病エピソード
DSM−W−TR/大うつ病性障害
大
項
目
(1)抑うつ気分
(2)興味と喜びの喪失
(3)易疲労感の増大と活動性の減少
(1)抑うつ気分
(2)興味または喜びの喪失
小
項
目
(1)集中力と注意力の減退
(2)自己評価と自信のなさ
(3)罪責感と無価値感
(4)将来に対する希望のない悲観的な見方
(5)自傷あるいは自殺の観念や行為
(6)睡眠障害
(7)食欲不振
(1)体重や食欲の減少か増加
(2)不眠または睡眠障害
(3)焦燥か制止
(4)易疲労感か気力の減退
(5)無価値感、罪責感
(6)思考力や集中力の減退
(7)自殺念慮や自殺企図
ICD−10のうつ病エピソードの診断では、大項目の3つが診断の基本となり、重症度にしたがって、4段階に分類されるのです。段階に応じて、治療や援助の方法に違いがみられます。また軽症うつ病と診断されるほど症状は重くないけれども、2年以上も続くものであれば「気分変調症」と呼ばれます。
ICD−10におけるうつ病エピソードの重症度
1
軽症うつ病
大項目のうち2項目と小項目の2項目が2週間以上続くもの。
2
中等度うつ病
大項目のうち2項目と小項目の3〜4項目が2週間以上続くもの。
3
精神症状をともなわない重症うつ病
大項目がすべてみられ、小項目の4項目が2週間以上続くもの。
4
精神症状をともなう重症うつ病
3
に加えて妄想や幻覚、昏迷の症状を示すもの。
DSM−W−TRによる大うつ病性障害では、2大項目を基本症状とし、大項目1症状以上と小項目とをあわせて5項目以上が2週間以上続いた場合は、大うつ病性障害と診断されます。
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