いったん自分の能力を「ダメだ」と考えてしまうと、一つのつまずきがあっただけで、これから先のこともすべて「どうせ能力がないのだから、うまくいくはずがない」と考えてしまいます。これが、スランプに陥っている状態です。“スランプ体質”の人はとくに陥りやすく、そうでない人も、大きな失敗や失敗が続いたことをきっかけに、スランプ状態に陥ることがあります。 その結果、今まではテキパキと決められたことが決められなくなったり、たいした問題ではないと思えることにやたらとこだわったり、気にするようになり、結論が消極的でネガティブなものになります。このような考え方が、“スランプ思考”です。これは、“スランプ行動”を招く原因にもなり、スランプから脱出できない、一番の問題でもあります。 スランプから脱出するには、この“スランプ思考”をやめることが大切になるのですが、そのためには、「やれば成功する」という見通しを持つことです。「ダメだ」と思い込んでいる自分に、「本当は能力があるんだ。ダメだったのは、能力以外のところに原因があったんだ」と気づかせれば、“スランプ思考”を止めて、スランプ脱出の糸口が見つかります。 こんな実験があります。小学6年生232名に知能検査と学力検査を実施しました。そして、知的な能力はちゃんとあるが、学力はそれに追いついていない子どものなかで、できない理由を「自分には能力がないため」という“スランプ思考”に陥っている子供を7人選び出しました。 教科は算数で、毎日、10分くらいの簡単な計算問題をやらせ、感想も書いてもらいます。そして、添削して翌日に返し、その添削を読んでもらいます。その添削には、「ここはこういうふうに考えるとやりやすいぞ」「こういう工夫をすると解けるぞ」といったことを書きます。つまり、あなたができないのは、能力のせいではなく、解くためのちょっとした工夫を知らないためとか、努力が少し足りないためと理解させるのです。 1日目、2日目あたりの子どもの感想は、「自分はできない」「能力がない」というものが多かったのですが、1週間目になってくると変わってきました。「努力したから上がった」「努力しなかったから前はできなかったんだ」と、自分の能力を正当に評価するようになりました。 もちろん点数の方も、それにしたがって上がっていきました。同じクラスの他の子どもたちと一緒に行ったテストの結果、以前の平均点は、他の子どもたちが67点、対象の子どもたちが57点だったのが、1週間で、73点と73点、同じ点数が取れるようになりました。 対象となった小学生たちは添削指導によって、「点数が悪いのは、能力のせいではなく、勉強の仕方が悪かったからなんだ。やればできるようになるんだ」と、成功への見通しを立てることができました。その結果、スランプ思考から脱出し、点数が上がったのです。
「どうせ、自分はダメな人間だ」「きっと、またうまくいかない」と“スランプ思考”に陥っていると、それは行動面にも現れてきます。ダメだと思うから、現状を変えようとしないし、なんとかしようと努力もしません。また、やろうとしても自信がないから、不安や緊張で行動が萎縮したり、消極的なものになりやすくなります。これが“スランプ行動”です。 スランプに陥ったとき、体にどのような変化が起こるかというと、まず、ドキドキする、冷や汗をかく、体に力がはいる、といった変化が起きます。いつもと違う状態なので、当然失敗も起こりやすくなります。 また、会社が嫌だと思っていると、そこに向かう足取りが重く、ついうつむきがちになるといった行動になります。 “スランプ行動”が起こるようになると、いつもは平気でやっていることにもリラックスして取り組めなくなってしまいます。そのため、ますます失敗したり、ダメな結果を招きやすくなります。たとえば、机に向かっても、「またダメだったらどうしよう」ということばかり考え、不安で目の前の仕事に集中できないため、さらに失敗を招きやすくなります。すると、「やっぱりオレはダメなんだ」と、“スランプ思考”がより強固なものとなります。そうして、ますます“スランプ行動”に拍車がかかる、といったスランプの悪循環にはまり込んでしまいます。 “スランプ思考”は、“スランプ行動”を、“スランプ行動”は “スランプ思考”をお互い強め合う関係にあるのです。この“スランプ思考” “スランプ行動”のいずれかを断ち切れば、スランプ脱出への糸口も見つかるのです。
“スランプ思考” にしても、“スランプ行動”にしても、自分に対する自信を失っているというところからきている問題です。「営業成績が下がった」など、客観的にダメと思われる場合のスランプでも、本当の原因は、自分の気持ちや考え方が正常な状態ではなくなったところにあります。それが行動面にも変化が起こった結果、「営業成績が下がる」というかたちで現れたのです。 どのようなスランプであっても、脱出にもっとも大切なのは、“スランプ体質” “スランプ思考” “スランプ行動”の3つを追放することです。失った自分への自信を回復させ、うまくいっていた頃の考え方や気持ちの持ち方を取り戻し、抜け出すことができるのです。 その具体的方法としては、認知行動心理学の基本である「セルフ・モニタリング」と「セルフ・コントロール」です。「セルフ・モニタリング」とは、自分の現状を客観視することです。自分では「ダメだ」と思っているが、本当にそうなのか、現実をゆがんで受け止めているために、必要以上にダメだと思い込んでいるのではないか、そうであるとしたら、いったいどこがおかしいのか、といったことに気づくための方法です。 「セルフ・コントロール」とは、スランプで落ち込んだ気持ちを自分でポジティブな方向に持っていく方法です。今の生活ぶりや考え方、行動などをちょっと変える方法で、それがスランプで落ち込んだこころを元に戻すきっかけづくりをしてくれるのです。 この「セルフ・モニタリング」「セルフ・コントロール」の2つこそ、スランプ退治のカギです。“あばたもえくぼ”といいますが、気持ちの持ちようで見方や感じ方はいくらでも変わるものです。そればかりか、「病は気から」という言葉が示すように、体調まで変わってくるものなのです。「笑う門には福来たる」などは、まさしくスランプの人に参考にしてほしい言葉です。楽しいと思えば、行動も積極的になり、スランプから抜け出せ、本当に福がやってくるものなのです。